大事なものは大事にしろ 1/4

不安と緊張と興奮のないまぜになった表情を浮かべる貴島友一は、傍らに寄り添う妻の顔を見た。

 智香のおっとりとした清楚な顔には、友一と同種の、しかしどちらかと言えば不安と緊張が主の表情が浮かんでいる。薬指に指輪の嵌まった左手が、不安そうに彼の腕に添えられている。

 夫の友一が二十六歳、妻の智香が二十五歳の二人は、幼い頃から互いだけを見てきた幼馴染同士であり、そのため、二十代も半ばに達した今、軽い倦怠期を迎えていた。お互いから新鮮味が失われ、互いに異性としての魅力を感じなくなりつつあるのである。

 彼らはその倦怠期を打破するため、友一の発案により、とある試みに臨もうとしているところである。

 円らな瞳が真っ向から友一を見据えた。そこには不安と恐怖があった。乗り気でない妻を押しきる形での決定だったため、友一の心はずきりと痛んだ。

「なあ、智香、どうしても嫌なら……」

 思わず口にしかけた言葉は「いいの」というやや強い言葉に打ち消された。

「だって、見られるだけなんでしょ。それなら……恥ずかしいけど、別に……」

「お前がそう言うなら……」

 二人は、スワッピング相手募集用の会員制サイトで知り合った青年を待っているところである。本当はカップル同士のスワッピングをする予定だったのだが、向こうの都合で女が来られなくなったため、急遽、青年単独での参加となった。まだ躊躇いのあった二人は、そういう事情ならばと半ば安堵しつつ中止にしようとしたのだが、

「ホテル代は全額負担するので、愛撫を、それが無理でもせめて見学だけさせて欲しい」

との熱心な頼みを拒みきれず、こうして会うこととなったのである。


 待ち合わせ時間の五分前、メールで確認した通りの外見の青年が近づいてきた。

 よく筋肉のついた均整の取れた体をした青年だ。

 待ち合わせの相手は、サイト上のプロフィールによれば、登録名はT・S(後のやりとりで「サトウタロウ」という名前だとわかった)、年齢は二十歳、身長は百七十二センチ、体重は七十四キロ、ペニスサイズはS(直径四センチ以上、長さ十八センチ以上)で雁高の非包茎、テクニックに自信あり、信頼度は高(最高、高、並、低の第二位、プレイ経験者からの評価の平均で決まる)、とのことだった。また、プレイ体験者の感想は「とても燃えました」とか

「彼女があんなに乱れるのは初めて見ました」とか

「定期的にお願いしています」などと高評価だった。

 近寄ってくる青年も、ペニスサイズやテクニック云々はともあれ、大体プロフィールの通りのように思われた。

 青年が二人を見て「あの」と声をかけてきた。

「キジマご夫妻ですか」

「サトウくん?」

 友一が答える。 相手は頷き、申し訳なさそうに頭を下げた。

「はい。サトウです。

 今日はこちらの都合で予定を変えた上に、無理なお願いまでしてしまってすみません」

「あ、いやいや、いいんだよ。どっちかと言えば予定が変わって安心した面もあるし……

 それにホテル代も出してくれるんだろう。文句なんかないよ。

 折角会ったんだし、今日はなるべく楽しくやろう」

「そう言っていただけると嬉しいです。ところで、そちらがトモカさんですか」

「え、は、はい……」

 智香が小さな声で頷き、視線を避けるように友一の後ろに隠れた。

 友一はそんな妻の様子に昔の新鮮な初々しさを思い返しながら、苦笑した。

「悪いね。智香はちょっと緊張してるんだ」

「そうですか。まあ、無理もないですよ。こういうの、初めてなんですもんね。

 それにしても、可愛い奥さんですね。羨ましいですよ」

「嬉しいことを言ってくれるね。

 まあ、立ち話も何だし、早速ホテルに行こうか。もう予約を入れてあるんだろう」

「ええ、長引いてもいいように、一応、泊まりで。

 じゃあ行きましょうか。奥さんと一緒に歩いてもいいですか」

「一緒に、かい」

「はい。恋人みたいに。奥さんは他の男性に触れて旦那さんの良さを確認して、

 旦那さんは嫉妬して奥さんへの愛情を確認するんです」

 友一は渋い顔をしながらも、スワッピングに関しては大先輩である六つも年下の青年の言うことを受け容れた。

「ありがとうございます。じゃあ奥さん、こっちへ……」

「あ……」

 サトウが智香の手を引いたと思った瞬間、妻の体がサトウの腕の中に転がり込んでいた。


 いやらしい手つきで腰に腕を回しながらサトウがにこやかに言う。

「奥さん、凄く良い体じゃないですか。本当に、キジマさんが羨ましいです」

「あ、あの、サトウくん、手が……」

 智香が逃れるように身を捩る。腹側に回されたサトウの手が太腿や下腹部を撫でている。

 人通りの皆無でない路上で妻が公然と体を触られている。友一は不快感と微かな興奮を覚えながら、やや強い口調で制した。

「サトウくん、愛撫までは許すけど、場所はわきまえてくれ」

「あっ、すみません、奥さんが魅力的だから、ちょっとむらっと来ちゃって……気をつけます」

 サトウは神妙に頭を下げ、智香の体を弄り回すのをやめた。以後はおかしなこともせず――それでも夫としては不愉快だったが――普通に腰を抱いて智香をエスコートしていく。

 友一は、スワッピングのような異常な趣味の持ち主ではあるが、少し考えの浅いところがあるだけで、根は素直で誠実な人間のようだ、とサトウのことを評価した。


 雑談しながら歩くこと十五分、一同はホテルの部屋に着いた。

 上着を脱ぎながらサトウが二人に言った。

「早速触らせて貰っていいですか」

 今日の手順は、まずベッドでサトウが智香を愛撫し、それが済んだら、一旦友一と智香がシャワーを浴び、ベッドで二人がセックスするという形になっている。

「で、でも、まだシャワー浴びてない……」

 智香が緊張に顔を強張らせながら言う。

 友一は、それが本心でないことを知っている。二人は出発前に念入りに体を清めてきたのだ。気にするほどの汚れはない。これは単なる時間稼ぎなのだ。

 友一は智香に助け舟を出そうとしたが、サトウの方が早かった。

 智香の手を取り、じっと顔を見つめて言う。

「奥さん、僕、女の人の匂いが好きなんです。

 どうせ奥さんを抱けないんですから、せめて、それくらいは許してください」

「で、でも……」と智香は躊躇いを見せたが、サトウの再三の頼みに、遂に押し切られてしまった。

 ベッドまで移動し、「脱ぎますね……」と蚊の鳴くような声で呟いて、智香が服を脱ぎ始める。

 他の男の前で妻が肌を晒すことに暗い気持ちを抱きつつ、友一もシャツのボタンを外し始めた。

 サトウもそれを見て脱衣を始めた。最も早く下着姿になったのはサトウだった。

 後はズボンを下ろすだけの友一と、スカートを下ろしてストッキングに手をかけていた智香は、それを見て硬直した。二人の視線の先には、堂々と晒された逞しい体があった。股間は早くも戦闘態勢に入り、Sサイズが嘘でないことを誇示している。

「わあ……」

 智香が讃嘆とも驚愕ともつかない声を上げてサトウを見ている。その視線は逞しい体の各所――股間もだ――に注がれている。

 友一は自分がサトウに動物の雄としてどこまでも劣っていることを理解せざるを得なかった。雄としての敗北感と共に、雌を取られるのではないかという焦燥感と嫉妬心が湧き起こってきた。

 サトウが苦笑と共に言った。

「そんなに見られると恥ずかしいです。でも、そんなに気になるんでしたら、

 いっそ、パンツも脱いじゃいましょうか。

 勿論、その時はお二人にも裸になって貰いますけど……」

「いえ、あの、それはちょっと……」と慌てて手と首を横に振る智香を制し、友一は頷いた。

「……ああ、お願いするよ」

 妻が肌を晒すのはなるべく先延ばしにしたかったが、それ以上に、妻がサトウの巨大なものにどういう反応を示すかを知りたい欲求に駆られたのである。元々友一は、妻が他の男に抱かれる様を見せつけられるのなら、いっそ巨根の持ち主に貫かれる様を見てやろうではないか、という思いからSサイズのサトウを選んだのだ。幸か不幸かそれが果たされないことが決まった今、彼の興味は、せめて妻がそれを見た際にどう反応するかに集中していた。

「ユウくん!?」

「どうせ、後でそうなるんだから……ちょっと早くなっただけだよ」

 非難の声をそうなだめ、重ねて友一はサトウにパンツも脱ぐよう促した。

 サトウがパンツを下ろした瞬間に飛び出してきたものに、二人は息を呑んだ。三日月のように反り返り、下腹部に張り付きそうな急角度で天を目指すそれは、子供の腕のような凶器だった。年齢にそぐわない百戦錬磨を示すように黒光りしており、露出した先端は赤黒く膨らんで傘を広げ、幹との境目には深い谷と山がある。付け根の下には握り拳ほどもある袋がぶら下がっている。


 友一は委縮したように皮の中に引き籠もった自らの股間を見下ろし、決定的なまでの戦力差の存在を悟った。

 敗北感に苛まれながら妻を見ると、智香は目を見開いたまま、サトウの股間を凝視していた。

 智香がちらりと友一の股間に視線を移すが、友一と目が合うと、気まずそうに視線を逸らした。取り繕うように下着姿になり、向けられるサトウの視線と友一に配慮してか、体を隠しながらおっかなびっくり下着を脱いでいく。

 清楚な智香がペニスを見比べている。自分のものと今日会ったばかりの男のものとを比較している。清純な妻が見せた行動に、友一は困惑と興奮を禁じ得なかった。

「やっぱり思った通りだ。むちむちした良い体ですね。素敵ですよ、奥さん」

 友一が初めて味わう感情に戸惑っている間にも、サトウは行動を進めていた。彼女の親兄弟と友一以外の男の目に触れたことのない、智香の清純な体を舐め回すように見ている。

 掌に収まりきらない豊かな胸と清楚な乳首、自然な曲線を描く腹から腰にかけて、肉感的な尻と太腿、きめ細やかな肌、という智香の体をサトウはいたく気に入った様子だった。

「まずは軽くいきましょうか」

 サトウが後ろから智香を抱き締めた。

「ひっ」と声を上げて智香が身を捩るが、サトウは体の前に腕を回して離さない。

 自分しか触れたことのない妻の体が、目の前で他の男に抱き竦められている。裸の男が裸の妻を、肌と肌を合わせて抱き締めている。友一は喉がからからに渇いていくのを感じた。

「奥さん、お尻に当たってるもの、何だかわかりますか」

 智香は顔を紅潮させ、恥ずかしげに首を振った。わからないのでなく言いたくないのだろう。

 サトウは智香の尻にあの巨大なものを押し当てているのに違いなかった。あの自分のものとは比べ物にならないペニスが妻の体に触れていると思うと、胸の辺りが冷たくなって嫌な汗が出てくると共に、なぜだか腹の底が熱くなってくる。

「ほら、旦那さんにも聞こえるように、ちゃんと答えてください」

 腰を動かしながら、サトウは慣れた調子で智香を言葉で嬲っている。

 智香は涙目になりながら、か細い声で「おちんちん……」と答えた。普段ならば恥ずかしがって絶対に口にしないであろう言葉だ。早くも雰囲気に中てられつつあるらしい。

「答えてくれたお礼をしますね。顔こっち向けて……」

 言うが早いか、サトウは智香の顔を横に向けさせて顔を近づけ、驚いたように開いた口に唇を当てた。

 智香が抵抗するように身を捩り、助けを求めるように友一を見た。

 だが友一は、救いを求める視線を受け止め、頷いた。それはキスの許可だった。

 ショックを受けたような顔をした後、諦めたのか、智香は目を閉じた。

 抵抗が止んだのをよいことに、サトウは智香の口の中にまで攻め込んだ。口を塞ぐように唇を当て、舌を滑り込ませている。鼻にかかった息遣いと淫らな水音が響く。その間も腰は尻に擦りつけられており、片方の手は友一以外の男が触れたことのない胸を撫でるように揉んでいる。手の中で智香の大きな胸が柔らかく形を変えている。

 やがて、最初は戸惑い、拒むように身を捩っていた智香に変化が訪れていた。逃れようとしていた唇は積極的にキスに応じ始めているし、頭を押さえる必要のなくなった手はいよいよ本格的に胸を弄び始めている。一方で、抵抗するようにサトウの手を押さえていた手は、胸に導こうとするかのように優しく添えられていた。

「キジマさん、奥さんのおっぱい凄いですね。ほら、手に余っちゃう」

 友一には返事をする余裕も、抗議する余裕もなかった。妻が目の前で弄ばれ、しかもそれを受け容れつつある様子に釘付けである。

「どれどれ、こっちの方は……ああ、もっさもさですね」

「や、は、恥ずかしい……」

「僕は毛の濃い女性の方が好きなんで、こういうのは凄く興奮します」

 サトウの手は智香の下腹部に滑り降りており、濃い目の陰毛を弄んでいる。

 友一は、指がそこで停まってくれることと、その先に進んでくれること、その矛盾する二つの願いを同時に抱いた。 願いは一つだけ叶い、もう片方は叶わなかった。

「うわ、凄い。とろとろだ。

 奥さん、キスとおっぱいだけでこんなになっちゃったんですか。

 感じやすいのかな。それとも、欲求不満?」

「やっ、駄目、やっ、ああ……!」

 サトウの手が動くと水気のある音が響いた。それは友一が今まで聞いたことのない音だった。

 智香は蠢くサトウの手を必死に押さえ、押し殺した声で啼きながら、脚をくねらせている。

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