彼女がデリ嬢として初の本番をするまで 11/14

生々しいが、現金を稼ぐためだという言い訳を、マドカは選ばされるのだ。
彼女自身は自分で選んだつもりでも、それは巧妙に最初から仕組まれていたのだ。


「3万円ここに置くからさ、って急にそのヒト財布からお金出したの」
「へぇ…」
マドカは「急に」なんて言い方をしたが、それは決して「急に」ではない。後出しのように見えて、先出しの金だ。最初にセックスは おいくらですか?と聞いてもいるし。
「さっきホテル代前払いしたから、今払えるのはこれが限界だって…」
「うん…」
この時点で俺は、その3万円の価値がわかっていない。それが本番をするための追加料金として適正なのかすらも。そもそも相場がわかってなかったもので、比較対象がなかったと言える。
「その時点で残り何分くらい?」
「20分切ってたと思う。もうシャワー浴びてもおかしくない時間」
「え?それってプレイ後のシャワーって意味だよな?」
「もちろんそう。このときは最初のシャワーもまだ」
おかしい。プレイ時間で考えれば、もうたかが数分のはず。メチャ…早漏…なの…か…?
俺は何か忘れてる。見逃した何かがある。
それが何なのか俺が気付くのと、マドカがそれに関して言及するのは、ほぼ同じタイミングだった。
「また明日呼ぶって。そう言われたの…」
「!?」
「このくらいの時間にまた予約入れるから、それまで考えておいてって」
「………。」
「しかも その3万は預けていくから。足りなければもっと持ってくるって」
「………。」
マドカは何度も何度も困ります、ってお金を突き返したそうだが、ソイツは受け取らなかったそうだ。
「もし、答えがどうしてもNOならば、明日はお金を返してもらったらすぐ帰る」
「………。」
「とも言ってた。私は今返事します、NOです。って何度も言ったんだ…」
「………。」
「でも、その日だって、100分コースのお金もらって何もしてなかったから…」
「うん…」
「あんまり強く言えないような、そんな負い目もあって…」
「うんうん…」
マドカは完全にソイツの術中にハマった。12時間コースで何もしない客だっていることすら忘れてる。
「時間はまだ15分くらい残ってるはずなのに帰っちゃった…」
「へー」
「お金持って追いかけたんだけど、おっぱい丸出し…で途中で無理だった…w」
「あいw」
翌日に呼ぶっていうのも用意周到な作戦だったのだろう。

金には間違いなく余裕がある客。心に余裕があるかはわからないが、経験豊富なノウハウは蓄えてる。
もしマドカを気に入らなければ、この日テキトーにプレイをして去る、そういうこともありえたのだろう。ところが、ソイツ的にマドカはホームランだったらしく、全てを明日に託したってことか…。
いや、託すだなんて、そんな神頼み的なものではない。しっかりと緻密な計算の上で、マドカを攻略したのだ。その攻略は、細部にわたって完璧なものだったのか、アフターフォローもしっかりしてたと見える。
なぜなら、数年後のマドカが、たいして悪びれる風でもなく、こうして俺に話しているのだから。口説き落とされたんじゃない、私は お金を稼ぐために割り切って関係を結んだんだ。
そう思い込んだことで、マドカは、決して正しくはない自分を正当化することに成功して今日に至るのだ。



ソイツが部屋を去っていった、ってとこまで聞いて、タバコに火を灯す。
マドカの部屋では極力吸わないように、吸うとしても換気扇の下で、って決められていたのだが、この時は堂々と煙を吐き出した。
マドカもそれに関して、何も言わなかった。
どうしようもない焦燥感。言うまでもなく、マドカが とうとう一線を超えてしまうことに対して。
そしてそれを詳細に知ることができるってことに興奮を隠せない自分への焦り。と、同時に心のどこかで安堵。
その日初めて会った男が100分以内にマドカをセックスまで持ち込んだわけじゃない、ってことで俺のプライドが辛うじて保たれたかのような、そんなくだらない感情。
ページを先に進めようとするマドカを制して、タバコを根元まで吸い尽くした。
「次の日休むとか、ソイツをNGにしちゃうとか、そういう選択肢はなかったの?」
「・・・。」
マドカはすぐに口を開くことはなく、そうなることはなんとなく俺もわかってはいた。
「金か…」
「うん…」
ここで言う「金」とは、2種類の意味があったと思うんだ。
ひとつは、1万円札3枚がマドカの手元にあるという事実。
もうひとつは、マドカが目標金額を稼がなければいけないという現実。
はたしてマドカがどっちの意味で返事をしたのかは、今でも俺にはわからない。マドカの手元には、前夜3枚の紙幣が残っていたわけで。その金をきっちり突っ返してさえいれば、こんなことにはならなかったのかもしれない。
時間はかかるかもしれないが、マドカ嬢のうなぎ昇りの人気を考えれば、基本プレイと正規の料金だけで、目標金額を達成するのは間違いなかっただろうに。
そして『金か…』『うん…』って言葉のやりとりには、俺をジワジワと興奮させるもう一つ裏の意味も、2種類、隠れていることに気付いていた。
ひとつは、マドカの返事が、手元に残った3枚の紙幣という事実を指しての返事だった場合。
マドカの懐に納まるのか、あの客の財布へと返却されるのか、その行方が気になるところ。
その行方は、いわばマドカの心の行方であり、マドカ嬢としての今後の在り方に直結する。
あの客をNGにしなかったのは、NGにしたらお金を返す機会をも失うと考えた?
次の日も休むことなく出勤し、あの客の待つ部屋へと再び足を踏み入れたのは、金を返すため?ロクにプレーもせず帰ってしまった客に、せめて今度は満足を与えなければと使命に駆られた?それとも…?
きちんとした話し合いと手順を踏まえた上で、3万円を受け取るためにもう一度会いに行った?それはつまり、ハナっから抱かれるつもりで会いに行ったわけで、それはそれで…微妙に…イイ…。



いやダメだろ…。



もうひとつは、マドカの返事が、目標金額を稼がなければいけないという現実を指しての返事だった場合。
これはとてもわかりやすくていい。
より効率よく短期間で金を稼ぐための手段として、本番、も選択肢の一つに加えたのだ。その客との出会いにヒントを得て、マドカなりに一晩考え、そして全てを覚悟したのだ。
そこには、デリ嬢としてというより、ひとりの人間が生き抜くため並々ならぬ決意をしたという、勇ましい姿すら感じ取ることができる。まぁ、違法ですが。
俺はそんなマドカが嫌いではない。アレコレ気にすることは多々あるが、最終的には好きなのだ。
前者も後者も、そのどちらでも、マドカは本番するようになるのだ。そして もう全てが終わったあとなのだ。俺がどうこう言う機会も与えられる間もないままに。
結局のところ、マドカが一番苦しかった時期に、俺の出番がまったくなかった事が一番悔しいのだ。



「次のページで?ついに?」
「いや、次の次のページだった…」
そう言ってマドカは、次のページを俺に見せてくれる。
さっきのページと同様に6名の客。しかし今度は全員がリピーターである。特に気になる客はいない。
『↑』が4つ記入されてる客がいたけど、もはや雑魚にしか見えない。
「ちょっと待って心の準備するから」
「はい」
1日に一体何人の客を相手にしてんだよ、とか。さっきまでの俺なら たぶんそういう事を気にしてたと思う。
でも、不思議と、それすら俺の心を乱すことはなくなってきてる。お客さんをイカせた回数、その日に相手をした客の人数、そんなことは もうどうでもいい。
ましてマドカ自身が本気でイってしまったかどうかなど、取るに足らないことのように思えた。
「いいよ。次のページ、見ようじゃないか」
「はい」



ページをめくるマドカ。開かれた その見開き2ページ分のスペースは、ほぼ白紙だった。
「なにこれ、あぶりだし?w」
「ちょっとw 私すごい緊張しながら開いたのにw」
いやそれは俺も同じだけど。
左側ページの上段に、その日7人目の客のことが書いてあって、ただそれだけだった。もちろんソイツは、前夜マドカをあと一歩のとこまで追い詰めた、アイツである。
やはりその夜も「わ」ナンバーの車で現れ、100分という時間をマドカと共に過ごしてた。
「えっ!?3回もっ!?」
「!?」
俺の震える指先が指し示したのは初登場の『3↑』という表記。

マドカが慌ててノートの向きを自分の正面へ調整し、マジマジと見つめてた…。
「…これ金額だから。回数じゃない」
「そか…」
マドカが冷静な一言を放ち、また俺向きにノートを差し出す。

ただ、そこから読み取れる情報は、もうほとんど無いに等しい。記号は『3↑』のみだったし、マドカのコメントが『もうだめだ』と一言あるだけ。
「結局3万円でOKしたってこと?」
「OKしたっていうか、いつの間にかそうなってたというか…」
ちょっと煮え切らないマドカに腹が立つ。無理矢理ヤラれたとは考えにくいし、いつの間にかそうなった、ってのは恋人同士がさも当然のようにセックスしたような言い方だ。
「どっちにしたってヤったんだろうが…」
「うん、ごめん…」
マドカの謝罪の言葉を引き出したいワケじゃない。むしろ謝罪などいらない。
「話せそう?いやならべつに…」
「大丈夫。ヒロシ聞きたいでしょ?」
マドカは俺を見つめて不敵な笑みを浮かべる。けっこう肝が座ってるところがあるのだ。



「私は、特別意識しないで、いつも通りに部屋に入って挨拶から始めた」
「うん」
「○○から来ましたマドカと申します。よろしくお願いします。って」
「はい」
「そして3万円を取り出してテーブルの上に置いた」
「ほぉ」
「手渡しても受け取らないのはわかってたし、」
「だろうね」
「とりあえず私の手元にない状態にしたかったから、ただその場に置いた」
「うん」
「んで、何分コースなのかを聞いたの、マニュアル通りに」
「うん」
「その3万円をその料金に充ててもらって、何もなかったことにすればいいと思ったし…」
なるほど。特別おかしなところはない。
いきなり、この3万円はお返ししますし本番もしません、だなんて、自ら本番に関する話題を持ち出さなかったところもマドカらしくていい選択であったのだと思う。
ただ、相手が悪すぎたのだ。マドカの敵う相手ではなかったのだと俺は悟ってた。
「前夜と同じ100分コースで、私がお店に電話で伝えてるあいだに」
「うん」
「その分の料金を そのヒトもテーブルに並べてた」
「うん」
「私の電話が終わるのを見計らって、お風呂入ろうって言われたの」
「へえ」
「それは当然のことだし、私の意思で断れるものでもないし」
「うん」
「まぁ、普通に一緒にお風呂に入ることになりました…」
「はい…」
前夜と比べて、展開が非常にスピーディー。まさかお風呂でヤっちゃったのか?その場合…コンドーム…は?とかそんな不安が芽生え始める。



「お、お風呂でしちゃうの?」
「え?しないよ?」
マドカの手が伸びてきて、カチコチになってる俺のチンポを摘んだ。
「もぉ、先走っちゃダメでしょ?」
「は、はい… (´Д`)ハァ…」
そのまましばらく弄られた。俺はじっと大人しくしてて…それがすごくイイ感じだった。
「それでね?」
「う、うん」
マドカは表面上は冷静さを保ってて、俺の性癖を十二分に意識してるようにも思えた。
「話を聞いたら、出張4日目で まともにまだお風呂に入ってなかったらしく」
「うん」
「頭がかゆい、とか言っててw」
「ふ、不潔だなオイw」
「いやいや自己申告するだけマシw もっと不潔なお客さんもいるしね」
「そうか…」
「だから、体はもちろんだけど、頭も洗ってあげたんだ」
「へー」
「シャンプーしてあげると喜ぶお客さんって、意外に多くてさー」
「わかる気もする」
「実はそういうのが、私が美容師になった原点だったりするw」
「まじかw」
金にも心にも余裕がある客層は、ヤることヤったら、あとはのんびりするらしく、最後に浴びるシャワーでシャンプーするのが定番になってた常連もいるらしかった。
まぁ、家庭持ちの客もいて、匂いや、髪型の変化など、気を遣う部分も多かったらしいが。ラブホに「無香料」のボディシャンプーなんてものがある、その意味がわかった気がした。



「そのヒトは私の体も洗ってくれるんだけど」
「洗いっこ?」
「洗いっこ、ではない。洗ってあげたあと、洗ってもらった」
「へ、へぇ…」
「嫉妬ですか?w」
「はい嫉妬ですw」
お風呂で泡だらけになりながら洗いっことか、ちょっと嫌な感じ。どちらかが一方的に洗うのであればOK。
これはシックスナイン同様に、客との共同作業への嫌悪感だ。マドカがハッキリと『嫉妬?』って確認し、俺も素直に『そうだ』と答えたことで、逆に気が楽になった。
「まぁ私の体、っていうかおっぱいを触るのが目的で洗いたがるお客さんは いっぱいいて」
「うん」
「最初のお風呂でいきなりすぐパイズリなんてパターンは多いの」
「(;゜д゜)ゴクリ…」
マドカのそういうセリフは、勿論、自分がデリ嬢として客相手に どういうことをしてきたのかを俺に正直に伝える意味もあっただろうけど、ちょっと俺を興奮させイジメようって意図も見え隠れする。
「お風呂で速攻イカせてあげたりとか…?」
「それを望まれれば、そうしてあげた」
「フェラも…?」
「手段は問わず! (キリリ」
「え?じゃやっぱりお風呂でいきなり本番しちゃうことも…?」
「ん?」
やはり、浴室でそうなった場合コンドームはどうなるのだ…って、そこが気になってどうしようもない。
「私は、髪が濡れるようなことはしたくなかったから」
「う、うん…」
「お風呂の床に寝っ転がるのもやだし、そんなとこで四つん這いは もっとイヤw」
「うんw」
「指摘される前に言っておくけど、立ちバックはヒロシしか無理」
「あ、はい」
「重たい私を抱っこで持ち上げてエッチ…なんてのもヒロシだけ」
「てへへ」
「ってことで、基本的にお風呂で本番は、しませんでした」
「基本的に…?」
「例外、はある。それにヒロシが何を心配してるのかも私にはわかってる」
「はい…」
「だからそれは後でちゃんと教えてあげるねw」
「あいw」
とりあえず、マドカはノートの男に決着を付けたいようだ。俺は、微妙だったけど。



ソイツはマドカにとっても俺にとっても、特別なんだ。
例えばマドカ嬢が合計10000人の男とヤルとしても、残りの9999人に比べてそいつは別格。9999人の男たちとは惰性でもヤレるけど、1人目に関しては、マドカ嬢自身の意思大きく絡む。
また、初めてのソイツが特別だとすることによって、処女を奪った俺こそが真の特別な男だと、俺はそう思いたかったのかもしれない。
「私も体を洗ってもらうわけですが」
「はい」
「大抵のお客さんはおっぱいモミモミし始めたり?」
「うん…」
「アソコを弄ってきたりもするのですが?」
「う、うん…」
「そのヒトはやけに紳士的で、大事なとこは自分で洗ってね、とか言ったんだ」
「ムカつく」
「え?そう?なんで?触ってこないのに、それはそれでダメなの?」
「まぁいいから」
マドカは、俺の気持ちを、いや男心をわかってるようでわかってない。
「それにさ、前の夜、私をあれだけベタ褒めしてたくせに…」
「うん…」
「裸になった私を見ても、なーんも言わないの」
「ふーん」
「私としては、超焦ってたよ」
「なんで?」
「デブがバレちゃったとかw 気が気じゃなかったw」
「いやデブじゃねーし」
ソイツの言動から、押してダメなら退いてみろ、とか、アメとムチを使い分ける、とか。俺の頭の中には、そんな言葉が浮かんできて、男の駆け引きに翻弄されてるマドカが想像できた。
ソイツのやることなすこと、すべてがムカつく。まるで大学時代の俺じゃねーか。
「で、歯を磨いて、消毒液でうがいしてぇ」
「うん」
「けっこうゆっくり浴槽にも浸かって、全部で30分くらいかなぁ」
「はい」
「そしてベッドに行きました」
「しかたない」
「そこからの私は…けっこう張り切ってたと思うんだ…」
「ガ━━(;゜Д゜) ━━ン!!」
「いやいや、ちゃんと話を聞いてよw」
「あいw」
「とにかく、そのヒトが本番がどうとか言い始める前にね」
「うん」
「パパッと終わらせたかったんだ、私としては。わかる?」
「はい」
「なんとなくガッつくタイプじゃないのはわかってたし」
「だね」
「1回抜いてあげれば、2回目、3回目はないんじゃないかって…」
「ぶっw」
マドカの話は聞いててとても面白かったし、興味深くもあった。
でも、それらは全て、マドカの思惑通りにはいかなかった、ってことも結論としてわかっているわけで、俺が笑ってしまったのは そういうとこ。
「ヒロシなんで笑ってんの?w」
「いやw ちょとツボった」
「え?私の考え方おかしかったかな、やっぱりw」
「いやそういうことじゃなくw」
俺が笑ってしまった理由はもうひとつあった。
「抜いてあげる、ってw」
「あ、やばいw 変な言い方しちゃったwww」
「今日その言葉、初めて使ったね」
「いや、なんとなくこの言い方は苦手でw」
「いや、エロくていいw ガンガン使ってw」
「ちょっと変なとこで興奮しないでよw」
俺の先入観だけど、「抜く」って言葉はあまり女の子は使わないような気がしてて、それがマドカの口から唐突にポーンと飛び出してきたのが面白くも悔しくもあったw
「じゃ、あとでヒロシのもいっぱい抜いてあげるからwww」
「うぃうぃwww」



それと風俗業界じゃ、お客さんを数えるのに、1人、2人、って単位じゃなくて、1本、2本って、数えるんだってマドカが教えてくれた。
それって明らかにチンポの数で数えてる気がするけど、開き直ってていい感じだよね。

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